1930年代、ポルトガル商人の厳しい要求から生まれたIWC「ポルトギーゼ」。その伝統を受け継ぐIW371615は、ステンレススチールの冷徹な輝きとアラビア数字の古典美が、航海計器の魂を現代に蘇らせる。12時位置の30分積算計と6時位置の小秒針が描くシンメトリーは、大西洋の潮汐リズムを具現化した「機械の詩」である。
ダイアルの銀白色は、IWCが「航海士の視認性」を追求して開発した「アージェントゥム」加工。太陽光の下で波紋のような微細な輝きを放ち、青鋼製の葉針が刻む影は六分儀の目盛りを想起させる。サファイアクリスタル裏蓋から覗くキャリバー69355のリズムは、スイス・シャフハウゼンの工房で仕上げられた「時間の航海日誌」のようだ。
本作の核心は「クロノグラフの再発明」にある。縦型クラッチ機構と導柱輪を組み合わせたこのムーブメントは、計測開始時に針が震えることなく滑らかに動作する。46時間のパワーリザーブを保持しつつ、防水性能30メートルを実現した薄型ケース(厚さ12.6mm)は、英国製スーツの袖口に違和感なく収まる。
しかし真の価値は「人類の挑戦史」を纏う点にある。1940年代、ポルトギーゼが実際に商船の航海士に採用され大西洋横断記録を支えた事実は、単なる装飾を超えた実用性の証。現代版IW371615は、ビジネス会議のストップウォッチとしても、ヨットのデッキでも、常に「次の未知」への針路を示す。
紺色のアリゲーターストラップが伝えるのは、デジタル時代に失われた「手動の尊厳」。この時計が測るのは1/4秒単位の時間ではなく、羅針盤を握った人類の冒険心そのものだ。ポルトギーゼの針先が触れるたび、大航海時代の風が現代の腕元を駆け抜ける。 |