1932年、幾何学の純粋美として誕生したパテックフィリップ「カラトラバ」。その系譜を継ぐ5178G-012は、超複雑機能と七宝焼の奇跡が融合した「時計芸術の頂点」である。ミニッツリピーター機能を備えた本作は、時間を音色に変換する聖杯の如く、収集家の胸を震わせる。
ダイアルに広がる深青色の七宝焼は、マイクロペインティング技法の極致。職人が100時間をかけ、0.2mmの金線で描くアールデコ調の幾何学模様は、光の加減で銀河の渦へと変容する。18Kホワイトゴールドのケースに施された「クロワゾネ」彫刻は、触れただけで時空の境界が溶けるような質感を生む。
心臓部のキャリバーR 27 PSは、三問機構の金字塔。ゴングハンマーが奏でる音階は、スイス・ヴァレー地方の教会鐘を参考にしたという。小型化された340個のパーツが、低音部にC音、高音部にFis音を響かせ、分単位まで正確に「時間の可視化」を実現する。48時間のパワーリザーブを保持しつつ、厚さ僅か7.65mmの薄型ケースに収まる技術は神業の域だ。
しかし真の価値は「人間の手わざの尊さ」にある。 ロレックスコピー時計七宝焼の下絵を描く職人は、一日に3時間しか作業できないという。眼球への負荷を考慮した伝統的な制約が、かえって完璧な色彩を生む。2014年、本作のプロトタイプがジュネーブ競売で25万スイスフランを記録した事実が、その芸術性を物語る。
この時計が刻むのは「音になる時間」である。所有者は夜毎、竜頭を引く儀式を行う。ハンマーがゴングを打つ瞬間、5178G-012は単なる機械を超え、時空を繋ぐ詩的な装置へと昇華するのだ。 |